分割出願の適法性(インクタンク事件)
分割要件が認められず、現実の出願日に繰り下がったケース
平成16(ワ)26092
特許権侵害差止請求事件
インクジェット記録装置用インクタンク事件
これは、親出願の出願当初明細書等内に、本願(特許3257597:分割出願)に記載された発明が、開示されているか否かが問題となったケースである。
特許3257597(本件特許)
【請求項1】 インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。
特開平5-229133(親出願の出願時クレーム)
【請求項1】インクジョット記録装置おいて、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクからインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とするインクジェット記録装置。
裁判所は、親出願には、インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している構成については、記載されているが、インク取り出し口の外縁が突出していないインク取り出し口にフィルムが接着された構成については、記載もしくは示唆されていない、と判示した。
出願当初の明細書を読んだ限り、インク取り出し口の外縁が突出していないインク取り出し口(以下、構成X)については記載されていない。しかしながら、発明の課題については、構成Xだけで、解決できる。従って、構成X自体も発明としては成立している。
ただ、実施例の記載や、【発明の効果】の「またインクタンクのインク取り出し口外縁をフィルムより突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる。」と記載から、あたかも、フィルムを用いた場合には、取り出し口外縁を突出させることが必要であるようにも解釈できることが問題となったようである。
ただ、フィルムの材料によっては、十分な強度を確保できることを考慮すれば、【発明の効果】の上記記載が必要なかったようにも考えられる。
また、明細書の作成段階において、作成者が、フィルムを設けるのみの構成では、進歩性がない、と考え、外縁を突出する構成を加えた、ということも想像できる。ただ、フィルムの内側にシール部材であるパッキン6を設けているので、外縁を突出する構成までを、出願時の請求項1の発明に限定する必要はなかったようにも思われる。
この判決を実務に役立てることを考えると、出願時には、【解決しようとする課題】には一つの課題を挙げ、【発明の効果】の欄には、それに対応する効果のみを記載するのが得策と考えられる。又は、【解決しようとする課題】、【発明の効果】をもう少しあやふやに書いておいた方が、発明をより柔軟に捉えることができ、後々分割出願する場合には、有利となる、気がする。
もちろん、外縁を突出する構成に出願時の請求項及び、【発明の詳細な説明】を限定していた場合であっても、【発明の詳細な説明】に、「突出させる構成は、発明の必須要件ではない」ことを明記しておければ、今回の判決とは異なった結果となったように思われる。
明細書の記載の怖さを実感させられる判決でした。
ラベル: 分割要件 インクジェット エプソン

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